公取委 ホロライブプロダクションなど運営のカバーに対し下請法に基づく勧告 VTuber動画等イラストの委託巡り
公正取引委員会 (以下公取委) は10月25日、カバー株式会社に対し、下請代金支払遅延等防止法第4条第2項第4号 (不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止) の規定に違反する行為が認められたとして勧告を行ったと発表しました。
勧告の概要は、2022年 (令和4年) 4月~2023年 (令和5年) 12月までの間、下請事業者に対し、下請事業者の給付を受領した後に、発注書等で示された仕様等からは作業が必要であることが分からないやり直しを無償でさせていたというもので、回数は下請事業者23名に対し、合計243回であったとしています。
主な事例
事例1 | カバーは、令和4年4月8日、下請事業者1名に対し、動画用2Dモデルの作成を発注し、同月18日に給付を受領した後、同年9月15日までの間に、発注書等で示された仕様等からは作業が必要であることが分からないやり直しを無償で7回させていた。 当該7回のやり直しのうちの3回は、検査期間を納入後7営業日以内としていたにもかかわらず、当該期間を経過した後にさせたものであった。 当該3回のやり直しのうちの2回は、本発注により作成された動画用2Dモデルを利用するVTuberが修正を希望していることを理由として、カバーが当該事業者に「制作完了」したとの通知を行った令和4年7月11日よりも後にやり直しをさせたものであった。 カバーは、その後も経理処理を失念するなどし、本発注の下請代金が支払われたのは、給付の受領日である令和4年4月18日から619日経過した令和5年12月27日であった。 | |||||
事例2 | カバーは、令和4年10月27日、下請事業者1名に対し、動画用2Dモデルの作成を発注し、同年11月21日に給付を受領した後、令和5年5月23日までの間に、発注書等で示された仕様等からは作業が必要であることが分からないやり直しを無償で5回させていた。 当該5回のやり直しは、いずれも検査期間を納入後5日以内としていたにもかかわらず、当該期間を経過した後にさせたものであり、本発注において、カバーが当該事業者に「社内、タレント共に全ての確認が完了」したとの通知を行ったのは、本発注の給付の受領日である令和4年11月21日から277日経過した令和5年8月25日であった。 本発注の下請代金が支払われたのは、給付の受領日である令和4年11月21日から312日経過した令和5年9月28日であった。 | |||||
事例3 | カバーは、令和5年1月24日、下請事業者1名に対し、動画用2Dモデルの作成を発注し、同年2月8日に給付を受領した後、同年3月22日までの間に、発注書等で示された仕様等からは作業が必要であることが分からないやり直しを無償で3回させていた。 当該3回のやり直しのうちの2回は、検査期間を納入後5日以内としていたにもかかわらず、当該期間を経過した後にさせたものであり、本発注において、カバーが当該事業者に「納品」が完了したとの通知を行ったのは、本発注の給付の受領日である令和5年2月8日から230日経過した同年9月26日であった。 カバーは、令和5年4月頃には、本発注により作成された動画用2Dモデルを用いて動画配信を行っていたが、本発注の下請代金が支払われたのは、給付の受領日である同年2月8日から266日経過した同年10月31日であった。 |
これらを踏まえ、公取委はカバーに対し、下請事業者の給付を受領した後に、無償で給付をやり直させたことによる費用に相当する額を公正取引委員会の確認を得た上で速やかに支払うことや、下請法を遵守する体制を確立すること。これらの措置を自社役員および従業員へ周知徹底することなどを求めています。
今回の公取委からの勧告を受け、カバーはプレスリリースを公開。事業の急拡大による対応の遅れを原因に挙げ、お詫びと事実関係、再発防止策などについて発表しています。
2024年10月25日
カバー株式会社
公正取引委員会からの下請代金支払遅延等防止法に基づく勧告について
当社は、本日、公正取引委員会から下請代金支払遅延等防止法 (以下、「下請法」) に基づく勧告及び指導 (以下、併せて「本勧告等」) を受けました。本勧告等は、当社が製作を委託しているお取引先様との取引において、第4条第1項第2号 (下請代金の支払遅延)、第4条第2項第4号 (不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止) の規定に違反すると判断されたものです。
お取引先様をはじめ関係者の皆様には大変ご心配とご迷惑をおかけしますことを心より深くお詫び申し上げます。
本勧告等については、2022年4月~2024年2月までの期間における取引の中で、当社とお取引先様とのLive2D モデル及び3Dモデルの作成委託を中心とする情報成果物に関する取引の一部が対象となっております。
具体的には、Live2Dモデルや3Dモデル等のクリエイティブをご依頼するにあたり、仕様書や指示書等で正しい言語化による発注が行われなかった結果、修正をご依頼する回数が多くなってしまったことや、完成までの期間が長期に渡ってしまったことなどでお取引先様へご負担ご迷惑をおかけしました。また、一部のお取引について漏れなく速やかにお支払いをすべきところ、支払処理が漏れていたことにより多大なるご迷惑をおかけしてしまいました。
当時、下請法に違反する状況となってしまっていた背景といたしましては、当社の事業が急拡大し取引件数が増大したのに対し、お取引先様の方々とのやり取りに抜け漏れや遅延が生じてしまっていたこと、及び社内体制の構築や社内研修が不十分であったことが原因となっております。現在においては、従業員の採用をはじめ、取引フローの見直しを進めるとともに、社内研修における社内周知等、社内体制の刷新を進め、各所で改善が進んでおります。
なお、本勧告等の対象となる取引のお取引先様に対し遅延損害金 (遅延利息) に相当する金額をすでにお支払いしておりますが、引き続き対応を進め、今後ご案内するべき事項が生じた場合には速やかにお知らせいたします。
当社は、本勧告等を真摯に受け止め、責任を痛感しております。2024年11月には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (通称、フリーランス新法)」が新たに施行も控えており、当社としてはクリエイターの皆様や各お取引先様との取引を円滑かつ安心して進められるよう体制を整えていく必要があると考えております。今後も、役員及び従業員に対する社内研修を実施するなど、各法令の遵守とともに社内体制の強化とモニタリング等の未然の対策を整備し、引き続きコンプライアンスの強化と再発防止に向け、改善を図る方針でございます。
以上
今回の公取委の勧告は、VTuber業界世界最大手の事務所を運営する企業に対するものとして重大であると言えますが、一方で同社が誤りを認め、率直に勧告を受け入れる姿勢を示したことは幸いと言えます。誤りを認められることは、それを真摯に受け止め、より良い社会の公器を目指すことを意味するでしょう。
ホロライブプロダクション運営のカバーと、各クリエイターとの関係は、概ね良好であるとファンの皆さんから見られてきました。今回のような問題は、ファンやクリエイターからの支持を失望へと変えかねないものだけに、世界のVTuber業界を牽引する企業として、今後の目に見える改善が求められるでしょう。