論評:「大切なのは、忘れないこと」 hololive SUPER EXPO 2025 & hololive 6th fes. Color Rise Harmony

3月8・9日開催の、カバー株式会社運営のVTuber事務所ホロライブプロダクションの大型イベント&ライブ「hololive SUPER EXPO 2025 & hololive 6th fes. Color Rise Harmony」。VTuber業界最大級のイベントとして、世界中のホロリス (ホロライブファン) が幕張メッセおよび配信に集まった。

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溢れ出る熱気 幕張の内外で

EXPOの来場者は、ホロライブプロダクションの人気拡大に伴い年々増加を続けている。性別、年齢、国籍を問わず、年々幅が広がっている。大勢の「海外ニキ」が訪れるのも当たり前の光景になった。

昨年との違いとしては、来場者の推しホロメン比率が分散していたことだ。昨年はさくらみこさんや星街すいせいさん推しが際立っていたが、今年は両者推しの多さに加えて、どのホロメンにも大勢の推しが見られた。これはつまり、人気の幅が広がっていること。さらには元々多かった「箱推し」がより増えていることも意味するのではないか。

その熱気は、会場外にも溢れかえっていた。幕張メッセ駐車場のホロメン痛車。メッセ周辺の推し同士によるオフ会や撮影会。東京駅のホロライブプロダクションオフィシャルショップで、週明けの平日月曜日に3時間待ち。秋葉原の店舗では、イベントのない通常のホロライブグッズ売場で入場待ちが発生。打ち上げでの大盛り上がりなど。そして、これだけの熱さにもかかわらず、目立ったマナー違反やトラブルが確認されなかったのも特筆に値する。

一方で、会場に入りたくても入れないという方も多かったことだろう。チケット販売の時点で、その激戦ぶりが浮き彫りになっていたが、急激な人気拡大に十分対応仕切れていないことは否定できない。来年以降のEXPOおよびfes開催に向けては、引き続き幕張メッセを会場とする場合は開催期間の延長、東京ビッグサイトや東京ドームといったより大きな会場を視野に入れる必要があるだろう。どのような形であれ、より多くの皆さんが来場し楽しめるイベントを今後も目指してほしいと思う。

悲しいのは卒業ではなく、忘れられること

今回、特に印象的であったのは、ホロライブプロダクションを卒業 (配信活動終了含む) したホロメンが、健在だったことだろう。

それは、昨年配信活動を終了したワトソン・アメリア (Watson Amelia) さんが、ブース展示物や着ぐるみ「Smol Ame (スモールアメ)」として"出演"していたにとどまらない。来場者にはワトソン・アメリアさんや、1月に卒業したセレス・ファウナ (Ceres Fauna) さん、配信活動を終了した沙花叉クロヱさんなどの推しが多く見られ、会場周辺ではこれらホロメンのファン同士による交流も盛んに行われていた。

これら光景を見て、思わずハッとさせられた。たとえ卒業しても、決して忘れず、ホロライブの一員として今も存在し続けている。桐生ココさんが今のホロライブ躍進の礎を築き、今も慕われるように。湊あくあさんがホロライブのアイドル路線に大きな影響を与えた伝説となったように。

人間はAIではないので、輝ける期間は限られている。しかしだからこそ、その有限の時を決して忘れられないものとして多くの人々の心に生き続け、後の世代にも語り継がれる。湊あくあさんが「私のことを忘れないで」と語っていたように、「本当に悲しいのは卒業 (引退) することではなく、忘れられること」なのだ。

それは、イベント直前に卒業を発表した紫咲シオンさんに、fesで最も大きな歓声が寄せられたことからも明らかだろう。彼女はこれまで長期休止など困難に直面しながらも、ホロライブを初期から支え続けた一員として7年近い活動を終えることになる。もしかしたら、満身創痍なのかもしれない。卒業自体は決して慣れるものではないが、契約解除など「忘れられる存在」として消えるのではなく、無事卒業まで駆け抜けられることは、とても幸いなことなのではないかと思う。

そして、その想いは、紫咲シオンさんの親友的存在であった湊あくあさんと同じく、桐生ココさんなどと同じく、卒業後もホロライブの中で、ファンの間で、ホロメンの一員として生き続けるだろう。

昨年、ホロメンの卒業・配信活動終了が相次いだのは、急速なホロライブプロダクションの成長やそれに伴う様々な移り変わり (いわゆる方向性の違い) が偶然にも重なったものであったように思う。しかし今回、それを根拠なく杞憂する必要などないことを改めて確信した。新たな道を歩み出す仲間を尊重し、その後もホロライブの一員として忘れられずに生き続けるのだから。「誰一人欠かせない (Shiny Smily Story, SUPERNOVA)」とは卒業しないことではなく「誰一人"忘れない"」ことなのだ。

現在のVTuberは、初音ミクをはじめとするボカロや、ネット配信、ゲームといった様々なコンテンツを包含して生まれた。一方で、タレントの多くは演者=人間の方がおり、そのために有限の存在として、初音ミクやAIと比較して"退化"した、いつか卒業して消えてしまう存在であるかのように揶揄されることもある。ホロメンの卒業発表が相次いだ昨年に「次に誰が卒業するか分からないのに応援する人の気が知れない」「魔法が解けるファンが増えれば、ホロライブは長くないだろう」などと、一部で喧伝されてもいた。

しかし、今回のEXPOおよびfesで見たのは、卒業という推しの選択を尊重し、卒業後も決して忘れず、よりホロメンを推したいという、ファンの熱気そのものであった。

有限だからこそ輝き、熱烈に支持され、卒業後も忘れられずに人々の心にあり続け、次の世代に連綿と引き継がれていくことは、引退したりこの世を去った歌手や芸能人、スポーツ選手が、世代を越えて愛され続けることで証明されている。

ホロライブプロダクションは「配信活動終了」導入によって、VTuberの卒業の定義を変えることに挑み始めているが、その姿勢はファンの意識も変え始めているのだ。

今後、ホロメンの卒業が終わりではなく、新たな始まりとしてより前向きに受け止められるようになれば、その影響はVTuber業界全体にも広がっていき、それが来年のEXPOおよびfesにもつながっていくだろう。

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