論評:ホロライブプロダクションは「VTuberの卒業」の定義を変えることに挑む

カバー株式会社運営のVTuber事務所ホロライブプロダクションは、2024年後半において、所属タレントが新たな一歩を踏み出す「卒業」の定義をポジティブなものとして変えていくことに挑み始めた可能性がある。

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「卒業」の定義を変える

ホロライブプロダクションでは2024年、湊あくあさんが「卒業」、ワトソン・アメリア (Watson Amelia) さんと沙花叉クロヱさんが「配信活動終了」という新たな形で定常的な活動を終えることになった。

その理由はタレントが語ったものが全てで、例えば「会社との方向性の違い」などは、長年活動 (勤務) していればどのような環境 (職場) でも浮上する普遍的なものだ。会社側とのトラブルで離れるというものではない以上、憶測や思い込みを除いて冷静にこれを見つめる必要があるだろう。

そして、ワトソン・アメリアさんも沙花叉クロヱさんも、今回、卒業発表に見られがちな「白字に黒文字のサムネイル」などは用いず、前向きな形での「配信活動終了」発表となった。

カバー公式noteでも「ホロライブプロダクション、所属するタレント、そしてタレント活動を見守って応援してくださっているファンの皆さんにとって、また、末席ながら陰でタレントを支えているスタッフにとっても、すべての活動を終了する形は非常に強い寂しさを伴うものでした」とある通り、従来の完全に姿を消す形でのタレントの卒業は、タレント自身やファンの皆さんに大変な苦痛を与えるものと言えるだろう。白字に黒文字のサムネイルやプレスリリースは見たくないという意見もあるように、新たな一歩を踏み出す門出がきわめてネガティブなものとして印象づけられてしまっているようでもある。

今回、カバーが辿り着いた「配信活動終了」は、そうした「卒業」のイメージをポジティブな意味に変える可能性を持ち、それに挑む決意がうかがえるように映る。実質的には卒業でも「籍は置き続ける」ことで、これまで以上に卒業タレントが「今も変わらないホロメン (ホロライブプロダクション所属タレント)」であるという絆を確かなものとし、また何かの機会があれば同窓会のように戻ってくることも十分あるという希望を持てる。ホロライブプロダクションは元来「箱推し」が多いが、これにより卒業タレントが推しだったファンも、よりホロライブプロダクション全体を見守り続けてくれるのではないか。

これは、ホロライブプロダクションが2019年に「アイドル路線」に転換して5年目に辿り着いた、大きな挑戦であると言える。

ユニット路線の今後にも注目

一方で、別の課題もある。

今回の沙花叉クロヱさんの配信活動終了により、日本グループ「ホロライブ」のうち、デビュー時メンバーのまま継続している世代 (期生・ユニット) が無くなることになる。

特に沙花叉クロヱさん所属の「秘密結社holoX」は、6期生という名称を公式に用いず、より5人でのユニットとして推しているイメージがあったため、0~5期生と比べてもタレントが抜ける影響は少なからずも避けられない。

ホロライブプロダクションは日本グループ「hololive DEV_IS」のReGLOSSやFLOW GLOW、英語グループ「ホロライブEnglish (hololive-EN)」のAdventやJusticeのように、holoX以降もユニット路線を推進しているが、企業である以上、将来的にタレントが抜ける可能性は事前に想定内としていることだろう。ユニット路線は今のホロライブプロダクションを形作るもの1つであるだけに、今後ますます注目されていくことになる。

悪質な憶測や誹謗中傷は通報を

こうした卒業や配信活動終了に加えて、2024年には夜空メルさんの契約解除、スタッフの友人Aさんの退職など、例年以上にホロライブプロダクションおよびカバーを後にした人々が目立ったことは確かだ。

これらをもって、ホロライブプロダクションおよびカバーが変化したことでタレントが追いやられている、これから崩壊が始まるなどと、一切の根拠や情報源を伴わない憶測・誹謗中傷などが悪質なメディアや一部の心ない人々により飛び交っている。

今回も沙花叉クロヱさんが発表を行う前に、一部メディアが「不安の声がある」等とする憶測に基づくゴシップ記事を配信していたが、こうしたものはいかなる信憑性も伴わないものであり、憶測や誹謗中傷を拡散させるものである。今回のホロライブプロダクションの件に限らず、悪質な報道や憶測・誹謗中傷は、各社宛に通報を行い対応を待つことが望ましいだろう。

現在のカバーの業績はきわめて好調であり、東証プライム市場移行も控えている。過去に浮上した懸念事項を丁寧に解決してきたことが奏功し、目下の不安材料は多くない。今後も成長を続けると考えられるだろう。

さらに、ホロメンのテレビ番組出演や大型案件も珍しくなくなっており、2020年にVTuber業界の最大手となって以来の変化が訪れていると言ってよいだろう。

ホロライブプロダクション最初のタレントであるときのそらさんのデビューから7年。今年、活動方針やプライベートの都合で卒業や配信活動終了、退職という新たな一歩を踏み出す方がいたのは、マイナスの一面だけでなく、カバーやホロライブプロダクションが今後も必要に応じて変化しつつ、VTuberの可能性を追求していくことを示していると考えられるのではないだろうか。